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大阪家庭裁判所 昭和38年(家)1840号 審判 1963年4月04日

申立人 大山俊三(仮名)

相手方 市村京子(仮名)

事件本人 市村新一(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

調査の結果によると次の実情が認められる。

(1)  申立人と相手方とは昭和二五年一〇月頃事実上の結婚をしその間に新一をもうけた。申立人は同二九年三月頃相手方の許を去りいつたん親許へ戻り、それから同年八月頃まで約半年間程は、新一らの生活費の仕送りをしてきたが、他方その頃すでに現在の妻房子と同棲をはじめ翌三〇年一〇月八日には同女との婚姻の届出をなし、申立人との内縁関係を一方的に解消し生活費の仕送りもしなくなつたものである。

ところでこれよりさき同二九年八月二六日、新一の申立人に対する認知と養育費請求および相手方の申立人に対する婚姻予約不履行に基づく慰藉料請求の各調停の申立が当裁判所になされ、同年九月二九日に申立人は新一を任意認知し、同年一二月八日に至つて、申立人は新一の養育費として毎月三、〇〇〇円宛翌三〇年一月から中学卒業まで支払う旨の調停が成立した。慰藉料調停の点は不成立となつた。

しかし申立人は上記調停で定められた養育費送金の義務を殆んど履行せず、例えば昭和三〇年度分は全部遅滞し一円の送金もしないし、翌三一年、三二年には僅かに数千円を支払つただけである。そのため同三三年一一月二四日には相手方から当裁判所へ上記義務の履行勧告の申出があり、当裁判所調査官が再三再四履行を勧告したが申立人は履行につき誠意ある態度を示さず、そのため遂に相手方は同三四年六月頃履行遅滞額一五万三、〇〇〇円について強制執行の手続をとるに至つた。この手続に入る前にも、勧告により申立人は一、五〇〇円に減額してもらえば支払う旨を述べたので、これを相手方に伝えたところ相手方も譲歩してこれを諒承したこともあつたが、申立人はこれについても履行をつづけなかつたものである。

差押を受けた申立人は、執行に対抗する手段として第三者異議の訴を提起すると共に、同三四年七月二日当裁判所へ本件申立をしてきたものである。

(2)  相手方は、申立人と事実上離別して後、母三重と新一の三人暮しでその乏しい収入で一家の生計をたて、新一の監護養育には母親としてできるだけの配慮をつくしており、新一もまた順調に成育している。本件申立について、相手方は、申立人が子の養育費を殆んど送金しないでおりながら、子の引取を主張するのは子を引き取るといえば養育費を請求しなくなるとでも考えているもので全く理由がないし、かりに引き取つても、いままで父親としての愛情を示さなかつたことや先妻や現在の妻との間に三子もあることからみて、とても充分に養育できるものではないから、相手方としては申立人に子を引き渡す気持はなく将来も引き続いて母親として新一の養育に当る考えであるが、申立人に対し可能な限度で養育費の仕送りを希望している。

申立人は、先妻との子二人を申立人の親族に託し新一を相手方に養育させ、さらに現在の妻との間に良子をもうけ、自動車運転手、自動車学校の教師などをして家計を支えてきたが、その収入家族状況からみて生活には余裕がない。なお申立人の妻房子は、女給のような仕事をしている相手方よりも自分の方で養育することが新一のためであり、また相手方が再婚する場合には子がない方がよいとも考えられるので、育てられるかどうかは分らないが引き取りを希望すると、述べている。

(3)  本件調停手続は、昭和三五年九月三日受付書簡で房子から申立人が退職したので出頭できない旨の申出があつて以後、事実上その進行を停止していたが、本年に入つて双方を呼出したところ、申立人は出頭せず相手方のみ出頭して、申立人にはその子の養育についても養育費の送金についても全く誠意がないと考えられるが、新一も父を欲する年頃であり父に会いたいことを希望もしているので会わせてやりたいと思うと述べ、また相手方としては現在保険外交や料理屋に勤めるなどして生計を維持し新一の養育にも当つているが、生活に余裕がないので、申立人に対し養育費の負担を希望している。

なお最近においても申立人は、収入や負債などからみて養育費を送ることができないので、相手方が養育費の請求をするのに対し、養育費を送るよりも子を引き取つて養育する方が容易であるから本件申立をしたものである、と述べている。

上記認定の実情と申立書の記載によると、申立人は、要するに相手方の子の養育費の請求に対抗する手段として、養育費送金よりも引き取つて養育する方が容易であると考えて本件申立をしたものであつて、その動機理由とするところ極めて打算的であり、子の監護養育に対する父親としての人間的な愛情に基づくものでないこと明らかであり、これにその他本件に現われた諸般の事情殊に子の養育の状況双方の生活状況および申立人の養育費不履行の状況を併せ考えると、新一は引き続き相手方の許で監護養育させ、申立人にはさきに調停で定められた養育費給付義務を負担させてゆくのが相当である。

してみると、現在のところ新一の親権者を申立人に指定しなければならない理由は全くないから、本件申立を却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 西尾太郎)

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